トランプ政権のサックス氏、AI「ペース調整」論に苦言 「規制がなければできないふりをやめろ」と指摘した背景

AI開発と政府規制の対立を表現したイメージ Technology Policy

AIの「ペース調整」論に冷や水を浴びせたトランプ政権高官

人工知能(AI)の急速な進化に伴い、開発企業自らが「安全な開発ペースの維持」や「適切な規制の枠組み」を政府に求める動きが活発化しています。しかし、こうした業界の姿勢に対して、トランプ政権の政策決定に関わる重要人物から厳しい批判の目が向けられました。

トランプ政権の米大統領科学技術諮問委員会(PCAST)共同議長を務めるデビッド・サックス(David Sacks)氏は9月12日(現地時間)、X(旧Twitter)への投稿で、米Anthropicのダリオ・アモデイCEOが同日に公開したエッセイ「We Must Pace the Frontier(フロンティアのペースを調整しなければならない)」と、米OpenAIのサム・アルトマンCEOの投稿に反応。AI企業が規制を歓迎するかのように振る舞う姿勢に対し、「規制がなければ開発を進められないかのようなふりをするのをやめるべきだ」と苦言を呈しました。

サックス氏が指摘する「やめるべき5つのポイント」

デビッド・サックス氏は、AI企業が他者の許可が必要であるかのように装ったり、規制の枠組みを前提条件として求めたりする姿勢を強く批判し、具体的に「やめるべきこと」として以下の5つのポイントを挙げました。

  • 他者の許可が必要なふり:政府や他者からの許可がなければ最先端のAI開発を進められないかのように装うこと。
  • 反トラスト法適用停止を求めるカルテル:競合他社と足並みを揃えて開発を抑制するための、実質的なカルテル形成やそのための法適用除外を求めること。
  • 製造物責任に優越する規制上の承認プロセスの要求:政府の承認を得ることで、将来的な法的責任を免れようとする規制プロセスの要求。
  • METRを独立した存在として扱うこと:AIの安全性評価などを行う外部機関(METRなど)を、完全に中立で独立した存在であるかのように扱うこと。
  • 競合を同じ評価者に取り締まらせること:自社と競合する他社の技術や製品を、同一の評価機関や基準によって取り締まらせようとすること。

これらの指摘は、AI企業が「安全性」や「倫理」を大義名分に掲げながら、実際には市場での優位性を固定化し、新規参入を阻むための「規制の虜(Regulatory Capture)」を狙っているのではないかという、強い懸念を反映しています。

サイバーセキュリティと製造物責任をイメージした図

「利他的な減速」の裏にある製造物責任への懸念

特に注目すべきは、サックス氏がAI企業の「減速」に対する動機について切り込んだ点です。同氏は、AI企業が開発ペースを落とそうとする動機が、純粋に社会の安全を思っての「利他的なもの」であるかのように装うべきではないと指摘しています。

サックス氏の分析によれば、AI企業が恐れているのは、自社が開発した強力なAIモデルが深刻なサイバー攻撃などの重大なインシデントに悪用された場合、企業側が巨額の「製造物責任」を問われるリスクです。政府によるお墨付き(規制上の承認)を得ることで、万が一の事態が発生した際の法的責任を回避・軽減したいという思惑が、規制を求める姿勢の背景にあるとサックス氏は見ています。

トランプ政権のAI政策スタンスを示すシグナル

デビッド・サックス氏は、2025年1月のトランプ政権発足時にホワイトハウスのAIおよび暗号資産担当特別顧問に就任しました。その後、勤務日数の上限に達したとして2026年3月に同職を退任したものの、現在はホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)においてPCASTの共同議長という要職を務めています。

このような経歴を持つサックス氏の発言は、トランプ政権がAI分野において「過度な規制による開発の抑制」を嫌い、民間企業の自由な競争と自己責任原則を重視していることを明確に示しています。政府がルールを決めて開発をコントロールするのではなく、企業は自らの責任において安全な製品を提供すべきであり、規制を隠れ蓑にして競争を制限したり責任を回避したりすることは許されないという強いメッセージと言えます。

まとめ:問われるAI企業の自己責任と競争のあり方

AnthropicやOpenAIといったフロントランナーが提唱する「ペース調整」や「協調的な規制」の議論は、一見すると社会の安全を守るための建設的な提案に見えます。しかし、トランプ政権の政策ブレーンであるサックス氏からの批判は、そうした提案が市場の独占や責任回避につながるリスクを浮き彫りにしました。

今後、米国のAI政策がどのように展開するかは不透明な部分もありますが、少なくとも現政権下においては、安易な規制の導入よりも、開発企業が自ら製造物責任を負いながら競争を続ける市場環境が支持される可能性が高いと考えられます。AI開発企業は、政府の規制に頼るのではなく、自らの技術がもたらすリスクに対して真に自己責任を果たす姿勢が問われています。

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