クラウドとCRMの巨人が挑む「データの壁」の打破
2026年9月、Amazon Web Services(AWS)とSalesforceは、両社のプラットフォーム間におけるAIおよびデータ連携を大幅に強化する新たな共同施策を発表しました。
エンタープライズITにおいて、顧客管理(CRM)データとクラウドインフラ上のデータが分断されていることは、長年の課題でした。今回の連携強化は、この「データの壁」を取り払い、企業のデータ資産を移動させることなく、高度なAIエージェントや基盤モデルを相互に活用できるようにすることを目指しています。
相互に乗り入れるAIアシスタントとエージェント
今回の発表における大きな柱の一つが、両社のAI機能の相互連携です。具体的には、実用性の高い複数の機能が提供されます。
まず、Salesforceが保有する高度なCRMデータを、AWSのAIアシスタントである「Amazon Quick」から直接利用できるようになります。これにより、AWS環境で作業するユーザーは、Salesforceの画面に切り替えることなく、顧客情報や商談状況を踏まえたインサイトを得ることが可能になります。
さらに、日常の業務コミュニケーションのハブである「Slack」との連携も強化されます。AWSの「DevOps Agent」をはじめとするAIエージェントを、Slackのインターフェースから直接呼び出して利用できるようになります。これにより、開発や運用のプロセスがチャット上で完結し、業務効率の向上が期待されます。
また、このエージェント連携は今後さらに拡大される予定です。具体的には、セキュリティ運用のための「AWS Security Agent」、コスト最適化を支援する「AWS FinOps Agent」、パートナー支援のための「AWS Partner Central agents」などへの対応が計画されています。

「Agentforce」からBedrock経由で多様な基盤モデルを利用可能に
Salesforceが展開するAIエージェント構築プラットフォーム「Agentforce」においても、AWSとの連携が深化します。
Agentforceのユーザーは、AWSのフルマネージドサービス「Amazon Bedrock」を介して、AnthropicやNVIDIAなどが提供する幅広い最先端の基盤モデルを利用できるようになります。これにより、業務シナリオや要件に応じて、最適なAIモデルを選択してエージェントに組み込むことが可能になります。
さらに、Amazon Bedrockで既に一般提供されているOpenAIのモデルについても、将来的にはAgentforceから利用できるようにする計画が示されています。これにより、企業は特定のAIベンダーにロックインされることなく、柔軟なマルチモデル戦略を推進できるようになります。
データを動かさない「Zero Copy」の適用範囲を大幅拡大
AIの性能を最大限に引き出すためには、最新かつ正確なデータへのアクセスが不可欠です。しかし、データを別のシステムにコピー・転送することは、セキュリティリスクやコスト、データの同期ズレといった問題を引き起こします。
この課題を解決するのが、データを移動させずに相互参照を可能にする「Zero Copy(ゼロコピー)」技術です。今回の発表では、「Salesforce Data 360」のZero Copy連携が、AWSの多様なデータストアへと大幅に拡大されることが明らかになりました。
具体的には、以下のAWSサービスやデータフォーマットが対象となります。
- 「AWS Glue」で管理される「Apache Iceberg」テーブル
- 「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)上のIcebergテーブル
- 「Amazon Aurora」
- 「Amazon RDS」
- 「Amazon SageMaker Lakehouse」
これにより、AWS上のデータレイクやリレーショナルデータベースに格納された膨大なデータを、Salesforce側に物理的にコピーすることなく、安全かつリアルタイムにAIエージェントやCRM機能から参照・活用できるようになります。
企業とユーザーにとっての重要性とメリット
この連携強化は、企業のIT戦略にどのような影響を与えるのでしょうか。検証された事実から、以下のメリットが期待されます。
第一に、セキュリティとコンプライアンスの維持が容易になります。Zero Copy技術の拡大により、機密性の高い顧客データや社内データを不要に移動させる必要がなくなるため、データガバナンスを厳格に保ったままAIの恩恵を享受できます。
第二に、開発者やビジネスユーザーの生産性向上です。Slackから直接AWSのDevOpsエージェントを操作したり、Amazon QuickからSalesforceのデータを参照したりできるようになることで、ツール間の行き来(コンテキストスイッチ)が減少し、シームレスなワークフローが実現します。
第三に、AIモデル選択の柔軟性です。Amazon Bedrockを介して、Anthropic、NVIDIA、そして将来的にはOpenAIなどの多様なモデルをAgentforceから利用できるため、ユースケースに最適なAIを適材適所で配置できます。
まとめ
AWSとSalesforceによる2026年9月の発表は、単なる機能追加にとどまらず、クラウドインフラとビジネスアプリケーションの境界線を曖昧にする重要なマイルストーンです。データの分断を解消する「Zero Copy」の拡大と、SlackやAmazon Quickを起点としたAIエージェントの相互運用は、エンタープライズにおけるAI活用のあり方を次のフェーズへと引き上げるものとなるでしょう。


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