1. 結論:AI活用の成否を分ける「目的からの逆算」と「安全な一元管理」
自治体や企業で生成AIの導入が進む一方、期待された効果が出ないケースやガバナンスの欠如によるリスクが問題視されています。自社で深刻な経営危機と組織改革を経験したNECは、その知見を活かして東京都足立区のEBPM(証拠に基づく政策立案)プロジェクトを支援し、AIエージェントとデータを組み合わせた「防犯ダッシュボード」の構築に貢献しました。本事例は、データ活用のゴールから逆算する思考法と、野良AIを防ぐセキュリティガバナンスが生成AI成功の鍵であることを示しています。
2. 足立区における「防犯ダッシュボード」構築の実証実験
東京都足立区は、複雑化する地域課題に対処するため、EBPMの実証実験としてAIエージェントを搭載したデータ分析基盤「防犯ダッシュボード」をアジャイル開発で構築しました。このシステムにはAIエージェントが搭載されており、職員のデータ活用を強力に支援する仕組みが整えられています。
データの統合と自然言語による対話型分析
足立区の防犯ダッシュボードの最大の特徴は、区の内部データと警視庁のオープンデータなどを統合した上で、職員が自然言語でAIと対話しながらデータ分析できる点にあります。具体的な内部データとしては、区民アンケート結果や防犯カメラの設置状況などが含まれます。自治体職員は複雑なデータ操作を必要とせず、自然言語でAIと対話しながらスムーズにデータ分析を行うことができます。
目的から逆算する「DIVAフレームワーク」の活用
このプロジェクトでは、足立区のプロジェクトでは、「DIVAフレームワーク」を用いた徹底的な目的の整理が行われました。DIVAフレームワークは、以下の4つの要素をさかのぼりながら仮説を構築し、シナリオを明確化する手法です。
- Achievement(達成すべき成果):最終的に目指す成果や目標の設定
- Value(提供価値):成果を生み出すために必要な価値
- Information(必要な情報):価値を出すために把握すべき情報
- Data(基盤となるデータ):分析に必要な基礎データ
単にデータを集めてAIに入力するのではなく、目指すべき成果から逆算して必要なデータと分析方法を絞り込むことで、実効性の高いデータ分析基盤を実現しました。

3. NECの背景:経営危機から得たデータ基盤構築の知見
足立区への支援の背景には、NEC自らが経験した組織課題とDXの取り組みがあります。かつてNECは、売り上げや利益の低迷、中期経営計画の取り下げなどが重なり、社員エンゲージメント率が19%にまで落ち込む深刻な経営危機を経験しました。
この危機的状況やいわゆる「言い訳文化」からの脱却を目指す中で、NECはデータのサイロ化を防ぐため、データ利活用基盤「One NEC Data Platform」を構築しました。自らデータ統合とAI活用を実践した経験が、足立区での支援策の土台となっています。
4. なぜ重要か:野良AIのリスク防止と段階的アプローチ
自治体や民間企業において全社的にAI活用を試みる際、最大の障害となるのがセキュリティとガバナンスの問題です。
部門任せが招く「野良AI」のリスク
全社的にAI活用を進める際、推進を各部門の裁量に任せると管理部門が把握していない独自のAIツールやAIエージェント(野良AI)が乱立し、セキュリティリスクが増大します。これにより、機密情報の漏洩やセキュリティリスクの著しい増大を引き起こす恐れがあります。
安全な環境でのスモールスタート支援
NECは野良AIの発生を抑止して一元管理できる安全な環境を用意した上で、小さな規模から段階的に導入を進めるアプローチを支援しています。統制されたガバナンス基盤の上で、小さな規模から段階的に導入を進めるアプローチを採用することで、リスクを最小限に抑えつつ確実な効果検証と活用定着を可能にしています。
5. 利用者・企業・自治体への影響
足立区の事例は、自治体におけるEBPM推進の具体的なモデルケースとなります。自然言語でAIと対話しながらデータ分析ができる環境は、専門知識を持たない職員でも高度な施策立案にデータを取り入れられる可能性を示しています。
6. 未確定点
現時点の確認済み情報からは、足立区における防犯ダッシュボード導入後の具体的な犯罪発生率の変化や、他施策への水平展開の具体的なスケジュールなどについての詳細は確認できません。
7. まとめ
生成AIやデータ活用の成功には、ツールの導入そのものよりも「目的の明確化(DIVAフレームワークによる逆算)」と「全社的なセキュリティガバナンス」が不可欠です。NECの社内改革で得られた知見と足立区の実践事例は、AI時代における組織のデータ活用において極めて重要な示唆を与えています。


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