AIの進化とセキュリティの新たな局面
生成AIの能力向上は目覚ましく、2026年の東京大学の入試問題を解かせた検証において、理科三類の合格者最高点を上回る結果が公表されるなど、その高度な処理能力が実証されています。しかし、この強力な知能は防御側だけでなく、サイバー攻撃の分野にも大きな変化をもたらしています。
すでに攻撃者がAIを高度に悪用する事例が発生しています。中国の国家支援型の攻撃者がAnthropicの「Claude Code」を悪用し、サイバー諜報活動を行った事例が報告されました。この攻撃では、偵察や脆弱性の発見、さらには認証情報の窃取といった攻撃工程の80〜90%をAIに自律的に実行させていたことが確認されています。
自律化するAI攻撃と短縮される猶予時間
AIによる攻撃の自動化は、サイバー脅威のスピードをこれまでにないレベルへ引き上げています。現在、脆弱性が見つかってから攻撃に使える状態になるまでの時間は、中央値で24時間を大きく下回る状況となっています。脆弱性の監視、攻撃プログラムの開発、攻撃先の特定、そして攻撃の実行までを、AIが自動かつ連続して実行するリスクが現実のものとなっています。
さらに、AIモデル自体が持つ脅威の潜在力も明らかになっています。Anthropicが2026年4月に公表した情報によると、未公開のAIモデル「Claude Mythos Preview」が、主要なOSやWebブラウザにおいて数千件の深刻な脆弱性を発見し、その多くのケースで人の指示なしに攻撃コードを作成したとされています。この能力は非常に強力であり、危険性を理由に当時一般公開が見送られた経緯があります。

防御側におけるAI活用「Project Glasswing」
攻撃側の高速化・自動化に対抗するため、高度なAIモデルの能力を防御側で先んじて活用する取り組みも始まっています。Anthropicは、モデルが持つ脆弱性発見能力などを防衛に役立てるため、AWS、Microsoft、Googleなどの主要プラットフォーマーと連携し、「Project Glasswing」を立ち上げました。
これにより、脅威が顕在化する前にインフラや主要ソフトウェアの脆弱性を先回りして特定・修正するエコシステムの構築が進められています。
重要システムを“分割”すべき理由と企業の備え
攻撃の自律化と高速化が進む現状において、企業や組織のIT部門は「すべての侵入を境界で完璧に防ぐことは困難である」という前提に立つ必要があります。守り切れない前提において重要となるのが、システムアーキテクチャの根本的な見直しです。
1. マイクロサービス(MS)を活用した被害の局所化
従来の単一で巨大なシステム構成(モノリス)から、マイクロサービス(MS)を活用した構成への移行が有効なアプローチとなります。データをサービス単位に分散して保持することにより、万が一攻撃を受けたり障害が発生したりした場合でも、被害の範囲をそのサービス内に留め、システム全体の崩壊や大規模な情報漏洩を防ぐことが可能です。
2. SBOMの常時管理と緊急対処手順の整備
高度化する脆弱性攻撃に対応するためには、どのソフトウェア部品(コンポーネント)でシステムが構成されているかを網羅した「SBOM(Software Bill of Materials)」を常に管理しておくことが求められます。脆弱性が検知された際には、即座に修正パッチを適用するか、リスクのある箇所を迅速に外部ネットワークから切り離す手順をあらかじめ確立しておくことが不可欠です。
まとめ
AIによって脆弱性監視から攻撃コード作成・実行までが自律化・連続化される中、従来の境界型防御だけでは迅速な攻撃に対応しきれない場面が増加しています。Project Glasswingのような防御側の最新の枠組みに注視しつつ、マイクロサービスによるシステムの分割・分散化とSBOMによる確実なコンポーネント管理を推進することが、これからの時代に求められる現実的なセキュリティ戦略となります。

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